家族信託と相続の基本

こんにちは、下関の弁護士の若松です。本日は、家族信託と相続の基本のお話をさせていただこうと思います。よろしくお願いします。今日のお話は、2つです。

家族信託で
(1)元気な今から、亡くなるまで、 
 安心・安全に生活を送るために!
  生前プラン
(2)相続の生前解決のために!
  相続プラン

生前プランは、認知症になっても、ご本人も家族も、困らないようにしましょうという話です。

相続は、死んだ時に、発生するわけですが、死んでこの世から、いなくなるので、残された相続人の間で、争いがおこるので、亡くなる前に、相続を終わらせておこうという話です。これが相続プランの話です。

1 生前の問題(死亡までの生前(認知症)対策問題)

生前の認知症対策をして、特に不動産をお持ちのご高齢者ご本人の安心安全な今後の生活を確保する方法としての「認知症対策家族信託」

   生前の問題 ―― 何が問題なのか?

1 悩み事 ― 例

「今、70歳。今は元気。子供はあてに出来ないし、頼ってもいけないと思うので、子どもにお金を残すことは考えないで、全部自分の老後に使おうと思います。でも認知になったり、寝たきりになったら、自分でお金を使うことも出来ないことに気づきました。自分で自分のお金を使うことも出来なくなるなんて、最近まで考えてもみませんでした。
皆さんは、どうされているのでしょうか。今のうちに老後に備えておく方法があればやっておきたいです。」

2 (答え)

認知症が出ても、自分らしく暮らせるように備えておくことは出来ます。「老いじたく」をしておくことで、不安から解放され、今を安心して生きていくことが出来るのではないかと思います。

3 この「老いじたく」の方法として、成年後見制度、任意後見制度が、2000年4月に施行されました。また、その利用促進のために2015年に利用促進法が施行されました。

4 成年後見制度とは?

判断能力が無くなったときに、本人のお世話をしてくれる制度です。
例えば、80歳を過ぎて、認知症が進行しているおじいちゃんの世話をしているおばあちゃん。2人暮らし。先に自分が死んだら、夫はどうなるんだろう・・・と不安。
   こんなケースで成年後見制度は大きな威力を発揮します。残っている財産や年金収入、公的制度を活用して生涯、後見人が本人の財産を管理してくれるからです。但し、日々の生活のお世話をするわけではありません。

5 成年後見制度に対する別の評価

アメリカでは「成年後見制度を利用するのは人生の失敗」と表現する学者がいます。
 失敗の理由とは
① 後見制度を利用することは、自己決定を失ってしまうことだから。
② 費用が高い、後見人にとっても負担が大きい。
③ 誰が後見人になるかで家族間の争いを起す。
という訳です。最大の問題は、①の自分の人生の自己決定権を失うことだと言われています。
つまり自分の生き方、つまり老後は、どこで(住居)、どのようなライフスタイルで、自分の収入財産をどのように利用処分して生きていくかを、自分で決めることなく、他の人間(後見人)に決められてしまうことが、人生の失敗と言っているわけです。

6 では失敗のない制度とは何でしょうか?

認知症になっても、体が不自由になっても、自分の老後の人生について自己決定権を残すことができるやり方が大事だというのです。
そのための制度は何か、①財産管理、療養看護の事務委任契約、②民事信託、③適切な住まいの選択、④医療に関する事前指示(延命治療をするかしないのか)の4つの制度であると指摘しています。

7 ご本人(高齢者)の立場、その家族(子どもたち)の立場

認知症になる可能性のあるご本人からすると、自分の人生の安心・安全(自分の財産を、自分の想いを実現するために最大限有効に使えるよう)にすることが大事です。
同時に、認知症になる可能性のある親を持つ子ども・家族からしますと、認知症になった親の預金も下ろせない、施設に入って空き家になった自宅も処分できない、親の療養看護を頼まれたお嫁さんが見舞いする交通費、付き添い看護の費用も払えないでは、子ども達は完全に困ってしまいます。
認知症になった親の付き添い看護やお世話は無償でやるのが家族の義務と言う感覚は、現在の社会実態に合っていません。親の介護の仕事がなければ会社員、パート、自営業として働けます。これを辞めて介護する場合であれ、そうでない場合であれ、お世話することの経済的な支援がなければ、介護する側の家族は精神的にも、肉体的にも、経済的にも破たんしてしまいます。
お世話されるご本人は、付き添い看護のおかげで自分の想いの実現ができる可能性もありますから、自分を支えてくれる家族に、認知症になった自分の療養看護の費用の支払や、施設入所、利用、福祉用品、介護用品等の費用について、自分の財産の中から費用負担できるなら、それが円滑に支払できるように、財産管理契約か家族信託の制度を用意して、準備しておくのが親としての義務になる時代ではないかと思います。

(65歳以上の高齢者のうち認知症を発症している人は推計15%で、2012年時点で約462万人に上ることが厚生労働省研究班の調査で明らかになっています。そして、その数が2025年には730万人へ増加し、65歳以上の5人に1人が認知症を発症すると推計されています。)

日本における認知症の人の将来推計

 

認知症にかかっている方の割合(年齢別)

 

8 認知症になると

認知症になると、原則、法律行為は出来なくなります。
財産被害も遭いやすくなります。(平成29年中の特殊詐欺全体の認知件数は前年に比べて約29%増加、被害総額は約3%減少しました。
 被害総額は、振り込め詐欺約378.1億円(警察官等をかたってキャッシュカードを直接受け取る等の手口で、事後ATMから引き出された金額を加えた実質的な被害総額)と振り込め詐欺以外の特殊詐欺約16.7億円を合わせて約394.7億円となっています。)

 

9 認知症になると、何が問題なの?

認知症に備えて、財産を預かる人が、預けた人に代わって、財産(不動産、現金)を管理処分できるようにするのが信託です。家族を守るために信託するという意味で、家族信託と言う感じです。
家族でないと預かれないという意味ではありません。親族でなくとも、友人でも良いし、法人でも可能です。

このように信託は、
一言でいいますと、「不動産」、「現金」の財産を、信頼できる人、法人に預けて、「管理、運用、処分」してもらう制度です。
たとえば不動産(マンション、アパート)を賃貸するのは賃貸借契約です。

所有者・・・・貸す(預けて使用させる)・・・・→  借主
所有者 ←・・・・・ 賃料の支払・・・・・・・・ 借主
不動産を預けて、使用してもらう(管理してもらう)点は、信託に似ていますが、違う点は、信託は、所有名義(登記名義)が移ります。
賃貸借は、利用権が移るだけです。
信託制度は、利用は、預ける人がそのまま利用を続けます。
預かる人は、登記の名義を受け取りますが、実質は預ける人の利益のために不動産を預かるだけです。
アパートや賃貸マンションの信託の場合には、不動産の登記名義を預かる人に変えます。預けた人は、賃料の収入は、そのまま自分が受け取ります。
なんで、こんな複雑な事、登記名義まで変えるのかです。
これは、登記名義を変更しないと、処分が円滑に出来ないからです。したがって、売却してほしくないときは、契約書と登記に「不動産の売却は禁止する」と書いておけば売却出来なくなります。

10 税金は?

 

以上が、生前の問題(死亡までの生前の認知症対策)のための家族信託です。

 

2 死亡にともなう相続問題(相続の生前対策)

自分亡き後の相続問題として、配偶者・家族の安心安全な生活対策としての「家族信託」です。あるいは、財産の適切な承継のための「家族信託」です。

第1 相続の問題 ―― なにが問題なのか?

1 相続人法定主義

民法は、誰が相続人になるかは、第一から第三順位まで決めています。相続人法定主義です。下図のようになります。

民法887条【子の相続権】 
相続人の子は,相続人となる。

第889条(2順位、3順位相続人)
1.次に掲げる者は、第887条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
一 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
二 被相続人の兄弟姉妹

第890条
被相続人の配偶者は、常に相続人となる。

(日本では、民法の規定により相続人になれる人は、配偶者(法律上の夫または妻)、子(直系卑属)、父母(直系尊属)(子・直系卑属がないとき)、兄弟姉妹(傍系血族(直系卑属、直系尊属のないとき)の4種類の立場の人のみが相続人となれます。ですから、内縁の妻や夫、叔父・叔母などは、遺産を相続することができません。)

2 相続分は、遺言優先主義です!

問題は、相続分です。相続分については、民法は遺言を優先しています。

第964条  遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。但し、遺留分に関する規定に違反することができない。

遺言者は、遺言で自分があげたい財産の内容や相続分を決められます。
遺言がないときに、相続分が決まっていないと困るので、補足的に法律が相続分を決めるという形式をとっています。しかし、実際は、原則と例外が逆転して、遺言相続は、全体の10%となっています。
遺言を作成している人は、死亡数約100万件中、年間10万件程度です。

3 相続争いの最大の原因

遺言を作成しないことが最大のトラブルの原因と言われています。
もちろん、遺言を作成しても、遺留分を侵害している場合、あるいは認知症の疑いがあるということとで、相続分を争われたり、遺言が無効にされることもあります。

4 遺言の4つのメリット

① 財産内容が分かる
② 財産の分け方を、相続人間で話し合わずにすむ
③ 相続手続きの手間が少なくなる(相続人の実印を押して貰わなくて良い)
④ 書いた人の気持ちが伝わる

5 亡くなる人が遺言を書かないと、同じ順位の相続人が複数いると、相続分は平等になります。

民法900条【法定相続分】 
同順位の相続人が数人あるときは,その相続分は,次の各号の定めるところによる。
子,直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは,各自の相続分は,相等しいものとする

このことで、話し合いがつかなくなると、不動産は現物分割、代償分割は大変なので、共有のままということもあり、遺産分割が困難で争いが起こりやすくなります。

上記のような相続人の関係で、自宅が一つしかないと、妻と子との間で、深刻な問題が発生します。

6 被相続人が生きていたら

被相続人が仮りに生きていて、目の前で、相続人間の争いを見ていて、はっきり、自分の気持ち、決定を示してくれたら、争いは大きく減るでしょう。
  逆に言えば、遺産をめぐる争いは、当然ながら本人が死亡しているから生じるわけです。
  だから、根本的な解決は、死後効力を発する遺言ではなく、生前に死後のことを決めて、本人の生前に効力を発していれば、争いは大いに減るでしょう。
  それが家族信託です。
  もちろん、前述のように、遺言があるだけでも大いに、相続人は助かります。銀行で、死亡した親の預金を下ろすのに、全員の戸籍謄本や実印を押した相続届の書類を銀行に出さないといけませんが、これには、大変な手間がかかります。
  ぜひ、遺言を活用したいものです。

7 家族信託の活用

 

8 どれくらい費用が掛かりますか  料金表

 

以下は、具体例です。それなりの費用が掛かります。